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【アラベスク】  第13章 夢と希望と未来



第2節 進路相談 [1]




 ガラリと扉が開く。音からして不機嫌なのはわかったし、見るとやはり機嫌は悪そうだった。
 四人の視線を受け、金本(かねもと)(さとし)はムッツリと黙ったまま鞄を机の上に放り投げる。そうして、その身も椅子へと放り投げた。
「やめて、椅子が壊れる」
「俺の身体より椅子かよ」
「当たり前だ」
 悪びれもせずに答える美鶴(みつる)をジロリと睨み、だがそれ以上は責める事もせずに机の上へと突っ伏した。
「ご機嫌斜めだね」
 肩を竦めるのはツバサ。
「女どもに梃子摺(てこず)ったか?」
 冷やかすのはコウ。
「コラーユ? いっその事、彼女たちと楽しい放課後でも過ごしてくればよかったのに」
 嫌味のような瑠駆真(るくま)の発言に、聡はガバリと身を起こす。
「殴られたいのか?」
「まさか」
 バチバチと火花を散らす二人の間に、割って入るのはツバサ。
「まぁまぁ、二人とも、こんなところで喧嘩はやめなよ」
「売ってきたのは瑠駆真だぜ」
「売ってるつもりはないよ。親切で言っただけ」
「それを売ってるって言うんだよ」
「じゃあ、買う?」
「ったりめーだっ!」
 言うなり立ち上がろうとする聡を、ツバサが慌てて宥める。
「やめなって。ほら、美鶴の勉強の邪魔になる」
「そうだ」
 簡潔に答え、美鶴がパチンと教科書を叩いた。
「喧嘩するなら出て行け」
「ほらぁ」
「ツバサもだ」
「え?」
「お前、どうしてココに居る?」
 見上げられ、ツバサはしばし目を丸くする。だがやがて、アハハハハっと大口を開けながら頭をガシガシと掻いてみせた。
 滋賀から戻って以来、ツバサもこの駅舎に顔を出す事が多くなった。最初はポツポツと。
 里奈(りな)の事をどう思っているのか。美鶴の住所を教えてもいいのか? 美鶴は逢いたくないのか? そんな事を聞きに来た。
 ツバサとしては、頼まれたからには任務は果たさなくてはとでも思っているのだろう。美鶴としてはそう考えていた。だが、かと言ってこちらは明確な答えが出せないでいる。
 自分はどうしたいのか?
 里奈に関して、美鶴は答えが出せないでいる。
 逢いたいのか、逢いたくないのか?
 結局曖昧にしか答えない美鶴を訪ねるうち、ツバサも駅舎に寄るのが日課となってしまったのだ。唐草(からくさ)ハウスでのボランティアがあるので長居をする事は無いが、それでもほぼ毎日やってくる。
 でもさ、学校から唐草ハウスへの通路上に、この駅舎は無いぞ。少しズレてる。私だって、ここに寄る為にわざわざ定期を買ったんだ。なのになんでわざわざツバサは顔を出すんだよ?
 そして、そのツバサを追うようにコウが姿を見せるようになった。バスケットボール部が廃部になり、放課後に時間ができてしまったのが大きな原因だろう。塾へ通う彼はいつもというワケではないが、むしろいつも一緒にいられるというワケではないがゆえに、来れる時は何が何でもやってくる。そうしてツバサの顔を見て満足しているといった様子だ。
 (わずら)わしい。
 美鶴が露骨に眉を寄せるも、ツバサ一筋のコウには全く効果無し。
「ごめんねぇ」
 などと謝るツバサもまんざらではないようだし、こうなってはむしろ瑠駆真や聡の存在がありがたいとすら思えてくる。
「いっその事、お前ら全員出て行け」
「えぇ」
 声をあげるのはツバサ。
「そんな殺生(せっしょう)なぁ」
「くだらない言葉を使うな。そもそもこの駅舎は私が管理を委託されているところだ。お前らには関係ない」
「でもさ、この駅舎って、市民に開放されている場所でしょう? 美鶴だけで独占するなんてどうかと思うなぁ」
 うぅ、正論なだけに反論できん。
 結局何も言い返す事ができずにプイッと教科書へ視線を戻す美鶴。そんな姿にペロッと舌を出しながら、ツバサがやおら聡へ視線を向けた。
「で? どうしたの? 何がご不満?」
 問いかけられ、聡は思い出したかのように大きく息を吐いた。
「どうもこうもねぇよ」
 言うなりポケットから紙を取り出す。クシャクシャに丸められた紙くずのようなそれをポイッと放り投げ、コウが取り上げた。広げてみると、進路相談の四文字。
「これって」
「お前の進路?」
「そ」
 一言で答え、今度は両手を机に乗せて身を乗り出す。
「どういう事だよ」
 吐き出すように言って、周囲を見渡す。
「お前ら、これ知ってたのか?」
「これって?」
 首を捻るコウに舌を打つ聡。
「だからぁ」
 イライラとした様子で紙を指差す。
「進路は学校側が決めるって事をだよ」
 美鶴の手が止まった。気付いたのは瑠駆真一人。
「俺はそんなの知らなかったぜ」
 美鶴に気付かず聡は続ける。
「二年になっても進路の話が全然出てこねぇからおかしいなとは思ってたけどよ。まさか学校が勝手に進路を決めてるなんて、思ってもみなかったぜ」
 さらに身を乗り出して、コウから紙を取り上げる。
「進路相談だっていうのに事前に進路アンケートなんてのもなかったからさ、どういう話になるのかも全然想像できなくってさ。とりあえず進学か就職かくらいは聞かれるんだろうなぁとは思ってたんだけどよ。いきなりさ、お前の進路は今のところこれらの大学になっているからな、なんて言われてこの紙渡されてよ。相談って言うより通告だぜ」
 ヒラヒラと紙を振って見せる。
「だいたい、学校が進路を決めるなんて、そんな学校あるか?」







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